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デジムナーその10

2013年06月26日

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「はっ、卜伝殿、耳のそれはなんでござるか?」

「ぴゃあすという伴天連(バテレン)が身につける飾りじゃ」

「キラキラと美しゅうござりまする」

「うむ、ぎあまんでできておる」

「実に見事な細工ですなあ...」

「うむ、西洋にも腕のたつ職人がいるとみえる...」

「卜伝殿、拙者も欲しゅうござりまする」

「うむ...え、何?待て、こればかりは...」

「卜伝殿...」

「ううむ、ぬしには日頃から世話になっておるからのう...」

ぽきっ、ぽきっ

「はい、これ。先っちょの花の部分...」

「おお、いいのでござるか?その飾りで一番大切なところのようにお見受けするが...」

「気にするな、うぬと拙者の仲じゃ」

「かたじけない、この具教、家宝にいたしまする」

「卜伝殿...」

「うむ、いかがいたした?」

「拙者はたと思ったのですが、そのぴゃあすとやら、今となっては姿が切支丹のクルスにそっくりでござる」

「ううむ、確かにそのとおりじゃ...これはいらぬ嫌疑をかけられかねぬのう...」

「かたじけない...拙者がいたらぬ所望をしたばかりに...」

「いやいや、己が決めてやったこと、詫びるには及ばぬ...おお、そうじゃ」

ぽきっ、ぽきっ

「これでどうじゃろう?」

「おお、+が卜の形に成りもうした!」

「何やら自分の名前をぶらさげているようで面映いが、粋狂でいいのう...」

「ええ、とてもよくお似合いです、卜伝殿...」


「と、まあ、あたしがおじいちゃんから聞いた話しってのはざっとこんな感じね...」

「へえ、そうだったのかあ...そして、その時、二回目に折った部分が、当時卜伝さんの身の回りの世話をしてた奉公人、つまりあたしらの遠い先祖に長い勤めの褒美として授けられた。って、そういうワケね」

「うん、そういうワケ。あとになってふたつの欠片は特製の漆の小箱に入れられて、ずうっと代々、この家の家宝として受け継がれてきたの」

「でもさあ、そんな大事なもの、なんでまたお父さんったら自分のヘルメットにボンドで貼っつけちゃたりしたんだろう...?」

「ああ、それはね...ほら、父さんったら若い自分、モトクロスに夢中だったじゃない?」

「うん、あたしはまだちっちゃかったんでよく憶えてないけど...」

「で、あるとき、世界大会に出ることになったのよ」

「わあ、すごいじゃない!」

「うん、まあね...で、何が何でも入賞したいもんだから、縁起をかつぐために、みんなに内緒で、家長の特権だとか何とか言って...あれ貼っちゃったのよ...」

「え?どういうこと、ワケわかんない...」

「ほら、この破片って元は十字架だったじゃない...」

「うん、元っつうか、途中一瞬だけだけど...」

「だからさ、元クルス=モトクロス」

「...ごめん、姉さん、あたし笑わなくていいかな...」

azisakakoji

 
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