« マンガ傑作選その122 | メイン | プッチィ »

今日の絵(その35)

2014年04月12日

webr01.jpg

ルル子と松吉は、おそらくはJ-POPばっか聞いてた影響で、うざい日本飛び出して世界の何処かにあるという楽園を目指してたんだけど、なかなかそんなとこ見つかんなくて、東へ西へ南へ北へ、地球ぐるぐる7、8周くらいしたけど、ぜんぜんだめで、「あーあ、あの人たち調子のいい歌ばっかりうたっちゃって、そんな都合のいいとこなんて、ないじゃないかーっ」とぼやきはじめた矢先にエンジンの調子が悪くなったかと思う間もなく、後部から噴煙出し始めて、そのまま2人乗り渡辺博士特製光速ジェットは制御不能になっちゃって、コントロール効かぬままものすごいスピードで天空も時空もなんもかんもすっとばして、地球の時間でいうところの半月ばかり、縦横無尽、現在過去未来、カモメが翔んだ、真知子もびっくり、はちゃめちゃにさまよったあげく、なんか変てこな植物がうっそうと生い茂ってる森の中へ不時着した。

「博士はさー、これ2人乗りって言ってたけど、どこどー見たって、触ったって、臭ったって、1人乗りだよなーっ」
「うん、あたしもそう思う。だって、席、一個しかないもん」
「うん、ルル子、おしりのはんぶん、おれの右膝の上に乗せてるもんな」
「ちょっときつい?」
「うん、けっこうしびれてる」
「でもやわらかいでしょ?マシュマロみたいに...」
「うん、いかつい男子じゃなくて良かったよ」
「そうでしょー、やわらかくて気持ちいいでしょう?しびれてる場合じゃないわよーっ」
「う、うん、でもさあ、マシュマロっていうより、もっと重量のある、おやつで言ったら、大福のでかいやつって感じだなあ...」
「あー、大福食べたいなーっ。そういえば、お腹減ったわね...不時着しちゃったついでにお昼ご飯ににしようか?」
「うん、そうしよう。昼か朝か夜かわかんないけどさ...」
「松吉、ちょっとトランク開けてくんない?」
「うん、わかった...わーっ!トランクの部分が吹っ飛んでしまっちゃってるーっ!」
「えーっ!」
「なーんちゃって...大丈夫、ぎりぎりセーフ!でも、その後ろの燃料タンクはちぎれてなくなっちゃてるけどね...」
「ところでお弁当、何作ったん?」
「水炊き鍋よ」
「えーっ、あの博多名物の!上等の鶏肉でじっくり出汁をとるあれなのかい?」
「ええ...鶏はさつま地鶏よ」
「つうか、水炊きって弁当可能?」
「ええ、でも弁当っていうより、今、ここで作るっていう感じよね。食材を持って来たの」
「わーっ、弁当作るのさぼったなーっ、こいつう...」
「だって、楽園目指しの長旅じゃない、ちんたら弁当作ったりする暇なんてないわよっ!」
「えーっ!」
「女の子はね、お洋服だとか身体のケアの品々だとか想い出の数々とか、なんやらかんやら準備するものが、たぁーっくさんあんのよ」
「そんなこと言ったってさ、ルル子持って来たの、その猫の絵のついたちっちゃなリュックひとつだけじゃん」
「ふう...だからー。ここまで絞り込むのが大変なんじゃない...この大変さで、豪華な幕の内弁当100人分が作れるほどよ」
「そんなもんかなあ...」
「そんなもんよ。だから女の子なのよ、お尻がマシュマロみたいにやわらかいのよ」
「大福だろ?」
「どっちでもいいのよ、どっちにしろあんたら堅物の男らとは違うのよ」
「はいはい、わかりましたよう、ごめんなさいねー、つうか、水炊き用のコンロは?」
「もちろん持って来たわよ、リュックの中に。燃料はこのジェット機のやつを使うの、そりゃあ強い火力でおいしくできるわよお...ワクワク...」
「あの、ワクワクのとこに水をさすようで教職、試験に2度落ちた...じゃなかった、恐縮なんですけど、燃料タンクが吹っ飛ん...」
「えーっ!!...ということは燃料がない!」
「はい、そのとおり!」
ゴキッ!
「わわ、なんでおれを殴んのさーっ」
「あ、ごめん、つい...」
「いててて...」
「しょうがないわね...燃料となるような小枝かなんかを探しに行きましょう...」
 
と、そんなわけで、ルル子と松吉は機内から外へ出ようとして気がついた。

「な、なんだ、このヘンテコな植物は!!」

そこにはふたりが今まで自分らの日常生活では見たことのない奇妙な草花や木々が棲息していた。

「でも、いい香りね」
「ああ、ほんとうに...」

二人は、不時着したことも、水炊き鍋のことも数分間忘れ、その香りの心地よさに酔いしれた。
...と、その時、

ザザザザ...

「な、何かいるわ!」
「わ、見て!」

いつの間にやら2人の乗ったジェットは10人ばかりの悪党ども(たぶん)に囲まれていた。
みな一様に水色の帽子をかぶり、ぶっそうな銃器を手にしている。

「だ、だれだおまえたちは!」
「おしえてやらないぞ」
「まあ、そういわずに、おしえてくれ!」
「いやだ」
「こういう場では素性を名乗るのが礼儀っていうもんだぞ」
「ひゃあ、お前、学校の先生みたいだな!」
「そうだ、教職2回おっこちたけどな」
「名乗るほどのものではないが、おれらはブルー団!」
「あ、だから帽子が青色なのね?」
「そうだお嬢さん」
「あら、お嬢さんだなんて...ぽっ」
「ここで頬染めるなよ」
「いいじゃない」
「うん、まあね、ちょっとかわいい」
「あら、そう、うふふふ...」
「おれらはブルー団!ブルううううだあああんっっ!!!」
「あ、聞いてます、ちゃんと、聞いてますったら」
「ふん、その集中力のなさが、教職に落ちた理由だな...」
「むう...で、あんらたはなんでここに?」
「ふっふっふっふっ...」
「もったいぶるなら、聞いてやんないぜ」
「あーっ、言います、言います、説明します!」
「おれらはブルー団!ブルー団とは、渡辺博士が極秘に開発した有機エンジン...」
「勇気エンジン?勇気の力...?」
「違う、有機だ!枯れた植物を燃料にするんだ」
「へー、そんなの作ってたんだー、おじいちゃん...松吉、知ってた?」
「ううん、知らなかった...」
「お前ら2人、エンジンの素性もわからん乗り物にのってたのか!?」
「えへっ」
「えへっ、じゃないだろう...あきれたやつらだ...」
「つうか、なんでおまえらブルー団が、渡辺博士を知っている!?」
「え、だって、おれら同じ町内に住んでんもん」
「なんと、おまえらは、おれたちと同郷人なのか?」
「ま、まあ、そういうことになるな」
「うひゃあ...驚いたなあ...よくぞこんな、どこだかわからない遥か遠くの森の中まで追ってこれたものだぞ...」
「何言ってんだ小僧、...今おまえらがいるここは、おれらの町内だぞ」
「ええーっ!」
「うそーっ!」
「ちょ、町内に、こんな奇妙キテレツな樹木がうっそうと茂った森がーっ...!!!」
「お前らは自分の町を良く知らんかったのだ...」
「ほえーっ」
「さあ、エンジンを渡してもらおうか...」
「エンジンは他所へ持って行っちゃあいかん。この町で使うのだ」

で、わたしたちは、青い帽子のおっさんたちにエンジンをおとなしく渡すことにしたの。
だって、なんの変哲もない町だけど、生まれ育った町だもの...親戚や友達いるし、この有機エンジンってやつ使って、この町が住み安くなってくれればありがたいもの...

「ふーん、意外とものわかりがいいんだな...」
「ものわかりも何も、だって、そんな大切なエンジンだなんて知らなかったんだもの。知ってたら勝手につかったりしなかったわ」
「で、これからおまえらどうすんだい?」
「...」
「この町に残りなよ」
「...」
「楽園なんてさ、良く聞きな...どこか、遠くにあるんじゃないんだぜ。そいじゃあ、どこにあるってえかっつうと、たいくつなどーってことない日常の中にあるのさ」
「うん...」
「遠くに行く必要なんてないのさ。自分の足元をようっく見るのさ。そこに楽園はある。ないしは楽園の萌芽みたいなやつがきっとある」
「ええ...」

ルル子は、頭を垂れ、神妙になって青い帽子のおじさんたちの説教を聞いた。
説教が終って、となりの松吉を見たら、自分と同じような面持ちをしていた。
(その時、鏡で自分の顔見たわけではないんだけど、そのように確信した)
ルル子と松吉は今回の一件で、ちょいとばかし大人になったのだ。
生意気だったのが、半生意気だとか、一夜干し意気くらいにはなった、つまりちょっぴり人間に深みが増した...
ふたりは見つめ合った。このようにしっかり見つめ合うのはふたりが出逢って初めてのような気がした。

「こほんっ...」
「あ」
「なあ、おふたりさん、いい雰囲気のとこじゃましちゃあ悪いが、今回の事で身にしみただろう?どこか遠くに行こうなんて思わないで、おれらと同じく、この、生まれた町で生活しようぜ」
「ええ...」
「うん、うん、よし、よし」
「ええ...でもやっぱり...」
「で、でも、やっぱり?」
「でも、やっぱりぼくたち、町を出ます...出てみます」
「えーっ!」
「ぼくらまだ十分若いですから」
「...」
「ただ、ジェットにも電車にも車にも乗りません...」
「うむ...」
「自分たちの足で歩いていきます、歩いて行けるとこまで行ってみます」

「...そうか」
「おじさんたち、いろいろありがとう」
「うむ」
「さようなら」
「おお、さようなら...達者でな...」

と、いう感じの絵です、今回は。
(長っ...)

azisakakoji

 
厳選リンク集サイトサーチ