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ça, beau, tendre
2014年07月26日
「さぼってんじゃないよ、おれは!」
サボテン畑の真ん中で男が叫んだ。
「だって君はただぼおっと立ってるだけで、何も労働じみたことをしていないではないか」
私がそういうと、男は「何いっ!」とドアを開け、運転席から力ずくで私を引きずり下ろした。
「この野郎!いばりくさりやがって!」と言いながら、持っていた棒で私を殴りはじめる。
サンチアゴというのが私の通り名だ。
本名は別にあるが、この名で反政府のゲリラ活動をしている。
長年実践を積んできたので、腕っ節だけの若輩者を叩きのめすのは容易い。
しかし私は何もせず、ただこの男の好きなようにさせておいた。
ひとしきり棒を振るうと男は息を切らせながら言った。
「どうだ!おれはさぼってるわけではなかったのだぞ!
サボテン畑に侵入した不信なやつを見つけ、こうして叩きのめすのがおれの仕事なのだ!」
「ほう、そうか...」
額からはどくどくと鮮血が流れ落ちていた。
男は正面、眼を見開き立ち尽くしている。
私は、流れる血を手のひらで拭うと、男の白いシャツに擦り付けていった。
男は気が抜けてしまったかのようにされるがままだ。
シャツは見る見るうちに真っ赤に染まり、その背後にあるトゲの生えた異様な植物の緑をひときわ鮮やかにした。
しばらくそうしてると血が、流れるのに飽きたのか不意に止まった。
「お前は真面目に働いていたのだな...」
「私はお前の父だ...」
そう言うと、私は20年ぶりに会う息子を抱きしめた。
夏は暑い。
血は赤く、サボテンは緑だ。
ふたりはコーヒーを入れて飲んだ。
濃くて真っ黒いやつだ。