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ミラクルファイヤースピード
2016年02月07日
はじめまして、こんにちは、さっそく自己紹介するわね。
まず、あたしから...
ニューヨークからやってきた向日葵で名前はパンジーよ!
好きなものはマンゴーのシャーベットと天体観測。
嫌いなものはヒールの高い靴かな...
で、となりにいるのはパリジェンヌのエカテリーナ。
好きなものは餅と登山と囲碁と...えっと、それから...
つうか、あんた、自分で自己紹介しなさいよ!
(と、いってパンジー、うしろからエカテリーナのお尻をつつく)
おほん...えーっ、なんだっけ...
あ、自己紹介ね!
こんにちは、エカテリーナと毛します。
ちょっとお、あんた、毛じゃないでしょ、毛じゃ...
あ、もとい、エカテリーナと申します。
18です。
クリーム色のブラウスと栗色のミニスカートがよくお似合いだ。
その寝癖か故意かわかんない前髪もいかしてるよ!
なんて、通りでたまに声をかけられます。
そんなわたしが最近、妙にハマってるのが、友達と一緒にダンスのオーディションを受けに行くことです。
妙にハマってるって...
君は、妙にハマってるって、そんなうわっついたひゅらひゃらした理由で、この名門、美咲ヶ丘ゴローダンスアカデミーのオーディションを受けに来たのかね?
ええ、いけなくて?
い、いけないってこたぁないけど...
なんか、こう、なんか、もうちょっとさ、せっかくだから、もうちょっと熱い、ハートにギンギン来るような理由があったらいいよなって...
もっとそんなのがほしい感じだよなーって...
何、もにょもにょ、言ってんのよ!
審査員なのに、これっぽっちも、しゃきっとしてないのね!
そんなんで、美咲ヶ丘ゴローダンスアカデミーの先生が務まるの?
笑っちゃうわ。
よく見りゃ、身なりだってなんかうだつがあがらないし...
どう考えたって、ここに将来性のある若者なんて集まりっこないわよ!
ねえ、パンジー!
え?あたし?
あたしは、好きだな、こういうタイプ...
ねえ、あんた、名前は?
あ、わ、わたしですか、えっと...
恥ずかしながら、わたしがここの代表、美咲ヶ丘ゴローです。
す、すみません...
すみませんって、何、頭下げてんのよ、ここ、頭下げるとこじゃないでしょ?
まあ、まあ、そういきり立たないでよ、エカちゃん?
エカ?
ええ、エカテリーナを短くして、エカ...だめ?
うん、だめよ。
できるなら、後の方をとってよ。
リーナがいいわ。
えーっ、それ似合わない、ぜったいエカがいい。
リーナよ、リーナ、リーなーっ!
エカよ、エカーっ!
あ、あの、ちょっと、じゃましてすみません、質問いいですか?
とっても気になるんですが...じゃあ、真ん中の”テ”は?
”テ”は、前のエカにも、後ろのリーナにも、どちらにも入れてもらえないんですか?
うん、テは入れないの、ねえ?
ええ、テは使わない...
ん?
ては使わない...
手は使わない...
そうだ、手は使わなくて、足だけ使うダンスをやるのよ!
おお、字数に制限があることで深く豊かな詩情を生む日本の俳句のように!
そうよ、身体の一部をあえて使わないことで!
いまだかつて見たこともないような美しいダンスを!
あたしたち、踊ることができるかも!!
うん!!
(そう言って、エカテリーナとパンジーがっちり手を取り見つめ合う)
わ、わたしも手伝わせてくれないかい?
誰!?
えーっ、知らんぷりしないでくれよー、さっきからずっとここにいた、ゴローだよ、
美咲ヶ丘のゴローだよ。
ねえ、パンジーどうする?
こいつ、仲間に入れる?
うーん、どうしようかな...
そうだ、一回、踊ってもらおう!
それ見て決めよう。
ああ、そうね、それがいいわ。
ゴロー、聞いた?
じゃあ、さっそく踊ってみてよ、あたしたち見てるから。
今、すぐよ!
は、はい!
...えっと、靴...
ふーっ
だめね...
帰ろっか
うん、帰ろ
ええーっ、待っておくれよーっ、
いそいで、靴とってくるからーっ
あのね、ゴロー、わたしたちは、”今、すぐ”って言ったはずよ。
その言葉が終わるか終わらないうちに、あんたは、もう踊り始めてなきゃなんない...
ダンスってそういうものよ。
あんたには、熱さもスピードも足りない、衝動が足りない。
ダンスはそんなんじゃ、やれないわ。
ううっく...
このふたり、パンジーとエカテリーナの言葉によって、
美咲ヶ丘ゴローの慢心は木っ端微塵に打ち砕かれた。
ゴローはアカデミーをたたみ、武者修行の旅へ出る。
22世紀屈指のダンサーと言われた
ミラクルファイヤー”スピード”ゴロー、
その伝説の始まりだ。
さて、10年後。
パリジェンヌのエカテリーナはゴローの妻に。
向日葵のパンジーはとうに枯れはて、死んで種を残した。
その何代目かの末裔がこの夏、ひときわ美しい花と咲き、
ゴローは、リリィと名付けた。
エカテリーナとリリィを通りすがりの流しの絵描き屋に描いてもらったのが上の絵だ。
その絵描き屋は、筆を動かしながら何かフランス語の歌を口ずさんでいた。
妙に心に残ったので、その歌に合わせて振り付けをした。
だいたいこんな感じだ。