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マンガ傑作選その18

2012年11月16日

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小学校時分、校区内にはいくつかのたこ焼き屋さんがあった。

むろんチェーン店なんかじゃないので、それぞれに特徴があった。
タコなんてたまにしか入っていないソース味の丸い単なる小麦粉の固まりみたいなものもあれば、水気が少なくやたら身が詰まってて3個も食べれば腹がいっぱいになるようなものもあった。
気分や懐具合によって店を変えたんだけど、それぞれにうまかった。

たこ焼きが多様であるのと同様、焼いてる人間も店構えも様々で個性があった。
老いた夫婦が自宅の軒先でひっそりやってるようなものもあれば、
赤くて大きなのぼりをはためかせ、威勢よく呼び込みをしてるようなとこもあった。

もっともよく通ったのは細い水路みたいな川の袂、今は不動産屋のビルが建ってるところにあった店だ。
”たこ焼き”としか看板が出てなかったので、ぼくらは”キング”と勝手に呼んでいた。

小さなプレハブ小屋で、中には簡素な調理場とカウンター、テーブルが一個に椅子が数脚おいてあった。
そこで30半ばぐらいの女の人がひとり、小さくて柔らかいたこ焼きを焼いていた。
座ると青色のプラスチックのコップに麦茶を入れて出してくれた。
夏場はところ天もやっていたように思う。

汗で濡れた髪が額に貼り付いてたり、胸元が近所のおばちゃんらより広く開いてたりして、妙に色っぽかった。
(10歳そこそこのガキだったので「何かこの人、もやっとした雰囲気だな...」という感じがしただけだけど)

その店に行くのには、実はたこ焼きの他にも重要な目的があった。

そこには、その名の由来である”キング”があったからだ。

キングというのは「少年キング」、マンガ雑誌のことだ。
「ジャンプ」はみんな買ってたし、「マガジン」や「サンデー」も誰かが持ってたが、「キング」毎週買ってるやつは周囲にはいなかった。
なんかちょっぴり”おとな”な感じで、小坊が熱中できる類いの読みものが少なかったからだと思う。

たこ焼き食いながらキング読んでると、時々裏口から男が入って来て、なにやらごそごそ二人で話しをしていた。
おそらくは
「おい、ちょっとばかし金...」
「あんたったら、おとついあげたばっかりじゃないの、いったい何に...」
「うるせいなあ、何に使おうがおれの勝手だろ...」
「あんた、また競輪ね...」
という風な会話がなされてたんだろう。

店の「キング」はこの男が読んだものなのだ。

もと暴走族かなんかで、きっとこの雑誌の看板読みもの、
いかした単車とバイク乗りがいっぱい出てくる”ワイルド7”が好きなのに違いなかった。


というわけで、深夜遠くの方から”ゴワンゴワン、キュウウイイイン”と暴走単車の音が聞こえてくると、無性にたこ焼きが食べたくなる。

今回の曲
Chris Spedding「Motorbikin'」

Marianne Faithfull「As Tears Go By 」(1965年)

Marianne Faithfull「As Tears Go By 」(1990年)

たこ焼きの話し書いてたら、バイク乗りの曲思い出して、ついでにバイク好きの女の子の映画思い出したので、マリアンヌ・フェイスフルの登場になりました。

azisakakoji

 
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