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デジムナーその8

2013年06月09日

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高校時代の水泳部は部員が少なかったので、自由形と背泳ぎと長距離を掛け持ちでやらんといけんかった。
長距離ってのは1500Mで、25Mのプールだと30往復だ。
ただただ懸命に泳ぎ続ける。
泳ぎ続けてると、たいてい千メートル過ぎたころから力が尽きて身体全体がまるで鉛みたいに重くなる。
そんな鉛の身体をあと残りの数百メートル、なんとか浮かせ前に進めるため、心の中で叫ぶ呪文のようなものがあった。

”ごん!”というのがそれだ。

「ごん!ごん!ごん!...」そう繰り返すことによって最後のゴールまで何とか気力をふりしぼることができた。

「”ごん”って何やねん?」というとそれは花巻村の百姓の権(ごん)のことだ。
白土三平のカムイ伝に登場する。
その死に様というのがすごい。

このマンガの主人公の一人に下人の正助がいる。
彼と出逢うことによってその知性と勇気を知り、共に活動をするようになるのが権である。

権は正助らと協力して大規模な百姓一揆を起こす。
起こした後、役人や商人の不正を暴くために首謀者のひとりとして自首する。

彼やその仲間は牢屋敷につながれ、拷問を受ける。

連日連夜の過酷な拷問...
そのあげくに正助が煮えたぎった鉛の鍋を顔に押し付けられそうになったとき、巨大な歯車からなる拷問具にしばりつけられていた権は叫ぶ。

「やめろ!」
「これ以上の拷問は許さん!」

そうして幕府名代の顔に唾をはきかける。

役人らは意地になり、そんな権をさらにはげしく責めようとする。
が、反対に権はそのとてつもない怪力で、つながれていた巨大歯車もそれを固定していた柱もぶっ壊してしまう。
そして言い放つ。

「こんなヤワな道具いつでもこわせたんだ!」
「それを今までだまっていたのは、うぬら侍も人間だと思っとったからだ...」
「だがもうゆるせん!!...いつでも一揆が起こる!!...」

さらに続ける

「もうひとつ...」
「こんな鉛で我らの心まで溶かすことはでけん!!」
「よっく見ておけい!!」

こう言うと彼は、鍋いっぱいに煮えたぎる鉛を一気に飲み干してしまう。
そうして仁王立ちのまま体全体からゴオオーッと火を噴き出し、そのまま倒れて死んでしまう。

マンガ本今までずいぶんたくさん読んだけど、最も眼に焼き付いているのがこの場面、このコマだ。


さて、話しが長くなってしまってすまん。
つまりは、こういうことだ。(相当なこじつけなんだけど...)

煮えたぎる鉛を飲み干すのに比べたら、泳ぎ疲れて鉛みたいに重くなった身体を前進させることなんて、まったく大したことではない。

「ごん!ごん!...」と叫ぶなら、尽きてしまうかに思えた力がまた湧いて出てくるのだ。


「またぁ...んなことあるわけないやん...」

と、訝るひとは、カムイ伝をまだ読んでないな。


azisakakoji

 
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