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弔花

2014年02月13日

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今月の初め、昔なじみの男がひとり死んでしまった。
なんとかとかかんとかっていう、急性の癌だそうだ。
散歩の途中、スピード出し過ぎてカーブ切り損ねた車にはねられたみたい、唐突に逝ってしまった。

最初に会ったのは、小3か小4の頃だ。
どこか都会の方から転校してきたそいつは、はじめて会ったとき、ベージュの半ズボンを穿いていた。
ひとむかし前の小坊なので、脳みそのどこにも”ベージュ”なんて言葉はないんだけど、今思い返すと、たしかにそれはそんな色で、とても新鮮だった。
茶や紺やへんてこな緑色のズボン穿いてるおれらの目には、それはキラーン!と輝いていて、とてつもなくまばゆかった。
その上そいつは、今まで会った事ない感じ、なんというか...肉厚な感じだった。
ランドセルをからったジョン・トラボルタとでもいった趣だ。

誕生会かなにかで家へ呼ばれて行くとそこは、ちょっと坂を登ったとこにあった。
日当りが良く、自分ちに比べ庭が広く明るく、すらっとすました感じだった。
そんなとこも、なんとなくトラボルタだった。

小学校の時はけっこう一緒に遊んだという気がする。
中学では、たまに会うくらい。
高校になって気付くといつの間にか、なんだか苦手な存在になっていた。

だって、全校集会なんかで体育館とかに行くと、何でか知らん、どこからか駆けて来ていきなり太ももに膝蹴りしてきたり、「こうじ、おまえ~のこと好きっちゃろー、へへへ」とからかってきたりするのだ。
一番いやだったのは、わけのわからないナンクセつけて困らせようとしてくることで、高校卒業して、会う機会がなくなるとほっとした。

それで何十年も会わなかった。
数年前、個展をやってたら、会場にはいない時、共通の友人が、そいつから聞いたのだといってひょっこりやってきた。
名刺がおいてあり、その裏にそう記されていた。
おれの動向を知っていたのだ。
来てくれた友人には、懐かしくてありがたくて、とても会いたかった。
けど会えば、またそいつがこれを機に登場してきそうだった。
なので、考えた末、不義理にも連絡をとらなかった。
(ひさやん、すまなかった)

それから何年かたった今月、そいつはふいに死んでしまった。
死んだからといって、性格が変わるわけじゃない。
あいかわらず、手ぐすね引いて、こっちをからかってやろうと狙っているはずだ。
したがって、郷里に帰ってもお線香あげにいったりしないし、遺影や墓をおがんだりもしない。
これからも、今までどおり、近付かないよう用心し続ける。

そうやって、こちらから意図して遠ざけてる間は、彼はしっかりと存在している。

いつもどこかで、「いつ駆け寄って行って膝蹴りかましてやろうか」とたくらんで、その大きな目を輝かせている。
その気配を感じることができる。

彼の、自分に対する、風変わりな好意をずっと感じていられる。


「どうでもよいことは流行に従い、 重大なことは道徳に従い、 芸術のことは自分に従う」
とは、映画監督の小津安二郎が言い残した言葉だ。
それに習い、我が身に照らして言うのなら、
「どうでもよいことと重大なことは自分に従い、芸術のことは自分以外のあらゆるものに従う」

芸術のことは今回はさておき、残りのふたつについてだが、まず、今の世の中、どうでもよいことと重大なことの見分けがつきにくい。
どうでもよいことがある日、重大なことになってるし、その逆も多い。
さらに道徳がまるで流行みたいに移り変わっちゃったりするので、何に従おうかと、目はキョロキョロ、キーボードはカタカタ、とっても大変だ。
思考は停止しちゃって、気がついたら、イェルサレムのアイヒマンみたいになってしまってる。
そんなわけで、どうでもよいことも重大なことも日頃から、自分に従う、自身の頭で考えて行動するっていうのを心がけておく。

人の死っていうのは当然、重大なことだ。
だから迷わず自分に従う。
自分なりの方法で先に逝った人間を弔う。
ある時は先人たちのように儀礼を粛々と行うだろうし、ある時は以前からの身振りを変らずに続ける。
今回は後者だ。
「線香もあげに来ないで、なんて冷たいやつなんだ..」とか「遺族の悲しみを考えたら、こんな文章書くなんて許せない...」とか、そういう他人の目は気にしない。
ムっちゃんみたいに気にしない。

ムっちゃんって誰やねん?
というと、「異邦人」のムルソーのことだ。

ーーーーー


ドスッ!

あいたーっ!
ううう、やっぱりおまえ、隠れとったねーっ

うひゃはははは...
こうじ、なん偉そうに俺のこと書きよっとや!?

よかやっか、いい機会っちゃけん

なーんやそい
小津とかアイヒマンとか...だいたいアイヒマンとかいうても誰もわからんやろが、かっちょぶんなよねーっ!

よかやっか、わからんやったら調べるやろが!

おいんこと書くなら、トランペットがうまかとか、なかなかハンサムやったとか、そがんことば書けよねーっ

よかやっか、うるさかねーっ

うるさかとは、おまえやっかーっ

なんてーっ!

あ、おらんくなった...


でも...またどうせ来るやろ...

azisakakoji

 
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