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ピー子の歌

2014年06月11日

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畑でトマトちぎってたら、土の上に白くてちっちゃくて丸いもんが転がっていたんよ。
妙なこともあるもんだなあ、こんなとこに卵なんて...って思ったさ。
こちとらはあんたがたも知ってるとおり、しょっちゅう腹をすかせてたもんでよ、鳥かトカゲかなんの卵かわかんなかったけど、卵にゃあ違いない、割ってゴクリ飲んじまおうと思ったのさ。
ところが手にとってみると、なんかさ、さっきまで手でちぎってたトマトと違って、みょうに温かいんよね。
それにちっこいのにずっしり手応えあるしさ。
それで、今思い返しても不思議なんだけど、持って帰って何とかしようと思ったわけさ。
何とかっていうのは、つまり、どんな動物かわかんないけど、とにかく生ませてみようと思ったのさ。
生ませてって、変だよな...何ていうのかな?この場合...
まあ、いいや、とにかく卵を食うのを思いとどまったわけさ。

そいでさ、持って帰って旦那に見せたら、あの方はおれなんかよりずんと学ってもんがおありになるからさ、これは鳥の卵だ、風化、じゃなかった、えっと...そうそう、孵化だ!孵化するには、これこれこうしたほうがいい、って教えてくださったので、その通りにしたわけさ。
まあ、あんまし期待なんてのはしてなかったけど、おどろいたことに数日したら、きしっきしって殻が割れて、ちっちゃな固まりがでてきたわけよ。
それがこのピー子ちゃんってわけさ。
もう、ピー子ちゃんったらかわいいんだから...

旅の人、まだ時間あるかい?
おお、そうか、それならひとつ聞いていきなよ。
おれとピー子の歌を!

と、その男が言って、ぼろぼろのギターひきながら自作の歌をうたったわけなのだが、それがとても心に響いて、私は聞きながら涙してしまった...
その時、たった一度聞いたきりなのに、50年たった今でも、そのメロディも詩も憶えてるよ。

と、言って、おじいちゃんが歌ってくれたのがこの歌よ。

けっこうしんどかったよなあ ピー子
今日はかんかん照りのうえに 風がとっても強かったからなあ
こんな日は 畑仕事はつらいよなあ

けっこう腹立たしかったよなあ ピー子
今日はせっかく植えた苗が みんなカラスにやられちまったからなあ
こんな日は 畑仕事はつらいよなあ

けっこう悲しかったよなあ ピー子
今日は失敗やらかして 旦那にこっぴどくしかられちまったからなあ
こんな日は 畑仕事はつらいよなあ

けっこうそれでも楽しいよなあ ピー子
今日も汗水垂らして働いて へとへとになって 腹がすく
飯も酒もとってもうまい
床についたら夢の中
おれとお前 空の上
眼下には 我らの小さな畑
おれとお前の楽園...

azisakakoji

 
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