« サーカスの娘 | メイン | マンガ傑作選その126 »
ピー子の歌
2014年06月11日
畑でトマトちぎってたら、土の上に白くてちっちゃくて丸いもんが転がっていたんよ。
妙なこともあるもんだなあ、こんなとこに卵なんて...って思ったさ。
こちとらはあんたがたも知ってるとおり、しょっちゅう腹をすかせてたもんでよ、鳥かトカゲかなんの卵かわかんなかったけど、卵にゃあ違いない、割ってゴクリ飲んじまおうと思ったのさ。
ところが手にとってみると、なんかさ、さっきまで手でちぎってたトマトと違って、みょうに温かいんよね。
それにちっこいのにずっしり手応えあるしさ。
それで、今思い返しても不思議なんだけど、持って帰って何とかしようと思ったわけさ。
何とかっていうのは、つまり、どんな動物かわかんないけど、とにかく生ませてみようと思ったのさ。
生ませてって、変だよな...何ていうのかな?この場合...
まあ、いいや、とにかく卵を食うのを思いとどまったわけさ。
そいでさ、持って帰って旦那に見せたら、あの方はおれなんかよりずんと学ってもんがおありになるからさ、これは鳥の卵だ、風化、じゃなかった、えっと...そうそう、孵化だ!孵化するには、これこれこうしたほうがいい、って教えてくださったので、その通りにしたわけさ。
まあ、あんまし期待なんてのはしてなかったけど、おどろいたことに数日したら、きしっきしって殻が割れて、ちっちゃな固まりがでてきたわけよ。
それがこのピー子ちゃんってわけさ。
もう、ピー子ちゃんったらかわいいんだから...
旅の人、まだ時間あるかい?
おお、そうか、それならひとつ聞いていきなよ。
おれとピー子の歌を!
と、その男が言って、ぼろぼろのギターひきながら自作の歌をうたったわけなのだが、それがとても心に響いて、私は聞きながら涙してしまった...
その時、たった一度聞いたきりなのに、50年たった今でも、そのメロディも詩も憶えてるよ。
と、言って、おじいちゃんが歌ってくれたのがこの歌よ。
けっこうしんどかったよなあ ピー子
今日はかんかん照りのうえに 風がとっても強かったからなあ
こんな日は 畑仕事はつらいよなあ
けっこう腹立たしかったよなあ ピー子
今日はせっかく植えた苗が みんなカラスにやられちまったからなあ
こんな日は 畑仕事はつらいよなあ
けっこう悲しかったよなあ ピー子
今日は失敗やらかして 旦那にこっぴどくしかられちまったからなあ
こんな日は 畑仕事はつらいよなあ
けっこうそれでも楽しいよなあ ピー子
今日も汗水垂らして働いて へとへとになって 腹がすく
飯も酒もとってもうまい
床についたら夢の中
おれとお前 空の上
眼下には 我らの小さな畑
おれとお前の楽園...