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恋愛クロール

2014年09月21日

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ところで、個展の準備なんかに追われててうっかりしてた。
何にうっかりしてたのかというと、エンドオブサマーにだ。
慣れない英語なんて気まぐれで使っちまったけど、つまり、今年の夏、夏ではないみたいな夏、冷たくて湿っぽくて薄暗い、ぼろ雑巾みたいな、しょぼくれた夏、その夏が、しょぼくれたまま、うっかりしてる間に終ってしまっていたのだ。
ぜんぜん気がつかなかった。
(手酷くいってすまん、今年の夏よ。しかしそれも君の息子、来年の夏が、しっかり暑くてまばゆい、ギンギラギンの夏で生まれてくるようにと願ってのことなのだ。許してくれ。)

それはさておき、7月の真ん中くらいたわむれに、"野外プールで泳ぐ幸せ”についての文章を書いた。
書いたまま保存しといた。
8月、夏の一番の盛りの頃、太陽ギラギラ、汗ダラダラ、喉カラカラで、蝉がギャンバラギャンバラ鳴きまくっている頃、そのような時、ブログにのっけよう、と思ってパソコンの隅にとっといた。
けど、今年の夏は8月になったってちっとも盛ってはくれなかった。
それでこの文章、登場の時機を逸してしまった。

秋になってしまった。
長袖に長ズボンで読んでもあんまし実感湧かないかもしれないけど、こういう文章だったです、それは。

「恋愛クロール」
世の中に気持ちの良いことは数多いけれど、大雨が去った翌日、野外プールで泳ぐ以上に気持ちの良いことはない。
プールは雨水でパンパンに満たされていて、四角のでかい池みたいだ。
水はピンと透きとおり、底の方ではどこからやってきたのか小さなカニが戯れている。
ズバンと飛び込むと夏だっていうのにひんやり冷たくて、水道水なんかより豊潤で、「きゃああ...」と、肌という肌が喜び声をあげる。

そんな肥えた水を、懐に抱きかかえるようにして泳いで行く。
恋人を胸に引き寄せるみたいにだ。
しかし、引き寄せたら、すぐにぐいと突き放す。
抱き寄せては放り出し、抱き寄せては放り出す。
好き、きらい、好き、きらい、を繰り返す。
その間、足はバタバタ、地団駄をふんでいる。
動きだけ見るならば、それはまるで十代の恋愛みたいな動作だ。

で、こんな風な動作をしばらく繰り返してると、すいすい水に乗って気持ちはいいんだけど、だんだんと飽きてくる。
それで、2千メートルくらいからは泳ぎ方を変える、平泳ぎにする。

平泳ぎはクロールに比べると、けっこうのんびりしている。
少しは頭をつかって考えるゆとりも生じる。
それでいろんなことに思いをめぐらす。
昼ご飯は何食べようとか、仕事は締め切りに間に合うのかとか、しばらく会ってない友人はどうしてるのかなとか、日本はどうなっちゃうんだろうとか...

身体を懸命に動かしてる分、頭に分別の余裕がないのか、色んなことが脈絡なく湧いて出てくる。
普段の生活で、色んなことを脈絡なく自由に湧いて出てこらせるのは、なかなか難しい。
なので、これ幸いと頭を無分別状態にさせておく。

そうしてると、作戦成功!
湧いて出る色んなことの中に、マンガや絵のいかしたアイディアが混じってる。
しめしめ、ニヤリだ。
そういう時には、忘れないよう、脳みそに染み込ませるよう、200メートル分くらい、それだけについて考えながら泳ぐ。

さて千メートルくらいこうして平ってると、カエルみたいに泳ぐのも、頭を働かせるのも、飽きてしまう、というか身体と頭を同時に動かすのに疲れてしまうので、また若年の恋愛みたいなクロールに切り替える。

恋愛クロールは考えない。
身体を動かすのに大わらわで、頭使ういとまがないのだ。

***

ところで、お知らせです。
このHPのいっとう最初のページの絵を、秋冬用のものに変えました。
「ピーコのなすがまま」という作品です。
あと、「Peinting」のコーナーに作品を40数点ばかり新たに加えました。
夜が長くて退屈な時とか、見ていただけたらうれしいぞ。

ひさびさに今回の曲。
ちょっと悲しいけど、この秋のテーマ曲。
Piers Faccini「the taste of tears」

azisakakoji

 
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