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ちょんまげ
2014年09月30日
「男と生まれてきたからには、一度はちょんまげを結っとかんとな...って思うんです」
去年の秋、個展の会場にいる時、仲良くなって間もない友人がぼそっと言った。
「明日晴れたら、お布団干そう...って思うんです」っていうのと同じくらい普通のことのように言ったので、おそらく彼にとってはごく自然な心持ちなのだろう。
目立ったりすることを嫌う寡黙な人なので、言葉通り、だだ素直に「男は一度は頭を剃ってちょんまげを結い、兜をかぶる心づもりを...」と思ったのだろう。
「今から髪を伸ばし始めて、一年後くらいにやるつもりです」
「うわあ、そりゃあ楽しみやねえ...」
と、それから一年が経った。
先日、熊本の個展の最終日、その友人が約束どおりやってきた。
それが冒頭の写真です。
かつらではない、ちょんまげを本当に結った人というのを初めて見た。
何だかとても生々しくてどきりとした。
空き地なんかにある大きな石をどかしたら、その下にうじゃうじゃたくさん色んな虫が蠢いていて、それを目にした心が、ざわってなることがあるけれど、そんな感じだった。
会場にきて彼を見たある人は、「えーっ!」っと驚いて叫び声を上げ、ある人は呆然、ポカンと口を開け、またある人は「いったい彼はどうしてこういうなりをしてるのだろう」と、つじつま合わせに眉根を寄せていた。
映画を2本立て続けに見て来たっていう人は、「映画よりこっちがずっと感激する」っといってなぜだか涙を流していた。
彼曰く、髷を結う紐をぎゅううっと引かれたとき、脳天から足の爪の先まで、きりりいーっっと身体全体が引き締まったのそうだ。
その一瞬の感覚を味わえただけでも、一年かけてちょんまげ結った甲斐がありました、と微笑んで言っていた。
会場へは親御さんの車で乗りつけたけど、帰りはひとりバスで帰るのだそうだ。
明日から一週間は床屋へ行く時間がないので、仕事である内装工事の現場へはそのままで行くらしい。
もちろん、髷は維持できないので、下ろして、落武者状態。
けっこう変だ。