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西郷さんシリーズ その54
2018年03月19日
途方もなく手前勝手な話で恐縮だけど、西郷さんの生まれ変わりが今のこの世にいるとしたら、それは中村哲さん(知らない人は調べてみよう)だと思っている。
そんなこともあって、一度その姿を実際に見てみたいなぁと思っていたら、西南大学でペシャワール会の報告会みたいなものがあるという。
彼も登壇するらしいので、出かけて行った。
最初、ここが晴れ舞台とばかりにおめかししたマダムが登場した。
動物愛護運動やってるハリウッドのセレブみたい、「あたし、いいことやってるの、すごいでしょう」っていうような雰囲気を全身に纏っていた。
中村さんらのアフガニスタンでの活動内容を紹介した映像を見せながら、「このナレーション、この声、みなさん、おわかりになられます?」と会場を見回す。
「そう、そうなんです、私たちの会の賛同者である”あの”吉永小百合さんが”無償で”ナレーションを引き受けてくださったのです」と、ものすごーく、ねっとり、これ見よがしに、話した。
それで、ちょっとやな気分になった。
(おそらく、とってもいい人なんだろうけど...こちとら捻くれ者でごめんなさい)
その後、中村さんがひょろりとでてきた。
背筋がすっと伸びてるようでもあれば、丸い猫背のようでもあるし、素早そうでもあれば、同時にのろそうでもある。
顔はと見れば、あらゆる表情が溶けて無くなって、微かな笑みだけが残ったような表情だ。
伏し目がちに、なんかとってもすまなさそうにぼそぼそ話し始めた。
舌ったらずというか、気が抜けたというか、朗らかというか、独特な耳触りだった。
そのとっても濃い白髪頭といい、物腰といい、なんだかまるでフォーク歌手の高田渡みたいだと思った。
私、ちっちゃな時から虫が好きで、虫のことやろうと思ってたらたまたま医者になっちゃって、医者で行った先が満足に水も飲めないような場所で、それで井戸掘るようになって、井戸では足りなくて、用水路掘るようになりました。まあ、成り行き任せの道楽みたいなもんです、そんなのに付き合ってもらって、すみませんねぇ...という佇まいだった。
むろん、道楽では、異郷(しかもアフガニスタン)の砂漠に25kmもの用水路を掘り、およそ10万人の農民が暮らしていける基盤を作ることなどできやしない。
その本を一冊でも読めば、その苦労のとてつもなさ、成し得たことの偉大さに誰しもおそれおののいてしまう。
けど、実際に目の前に立って話す彼からは、そんなオーラなんぞは微塵も感じはしなかった。
なんか、あっけらかん、飄々としていた。
それで拍子抜けがした。
抜けたっつうか、すぱっと自分の拍子が一刀両断に断ち切られた。
断ち切られ、束の間、濃密な空白ができ、またすぐ繋がった。
あたまが一瞬死んでまたすぐ生き返ったみたい。
それでさっぱり心地いい気分になった。
ああ、来てよかったなあ...
ところで、菅原文太に「ほとんど人力」(小学館)という対談集がある。
金子兜太(俳人)に大田昌秀(元沖縄県知事)、大石又七(第五福竜丸元乗組員)に野口勲(野口のタネ代表)など17人、文太の人選がすごい。
そこでの中村哲との対談の最中、いつもにまして熱を帯びたかのような文太がいう。
「中村さん、あんたは男の中の男だ...」
他でもない文太がそういうのならそうなのだろう。
男の中の男ってのはおそらく、普段は飄々としているものなのだ。