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今日の絵(その18)

2012年03月03日

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お金持ちの白人ばっか住んでるその地区の目抜き通り沿いにあるドーナッツ屋さんでうっすいコーヒー飲みながら、エクアドルの家族ひとりひとりにメール書いてたら、「隣に座ってもいいかな?」って聞く声がしたので振り向くと、あたしみたいに浅黒い肌の色した東洋人がにっこり笑って立ってんの。

店の中見渡すと、まあたしかに席はあたしの隣しか空いてないんで、「ええ、いいわよ、どうそ」って言って、またメールの続き書き始めたんだけど、そいつったら隣に座ったのはいいんだけど首こっちにかしげてあたしのことじっと見てんのよね。

右のうなじんとこに視線を強く感じてさ、なんかぞぞっとしちゃったんで「なんでじろじろ見てんのよ」って言ってやったわ。
そうしたらそいつ、自分で見てたのまったく意識してなかったみたいできょとんとしちゃってさ、はにかみながら「ごめん、だってここら辺、君みたいなタイプのひとあんましいないから...」って言うじゃない。

「だって、あたしここの人間じゃないから」って、思いっきりぶっきらぼうに言ってやったんだ。
だけど、そいつったら「あー、おれもここの人間じゃないんだーっ」って大げさな身振りでやたら嬉しそうに言うの。

まあ、でも、その時のしぐさや表情ってのがなんというか、とっても自然だし、あったかくて悪い感じじゃなかったのよね...

それで、メール書くのいったんやめにして、いっしょにおしゃべりし始めたの。

30分くらい、2人がこのドーナッツ屋にたどり着くまでのいきさつや何やかんやいろんなこと話したわ。
そしたら、いつの間にやらどちらからともなく「車さえあったら、ふたりで一緒にもっとずっと西の方へ行くんだけどなあ...」って言い始めたの...
「はーあ」っていっしょにため息ついて...ふと外のパーキング見たら窓開けっ放しのピックアップトラックが一台。

あたしたちそれ盗んで、一番近くの海へ行ったわ。
ひと泳ぎして、疲れちゃんたんで車のシートで昼寝して、目が覚めて、あ、そうだ、「あたしけっこう楽しくやってます」って写真とって家族のみんなに送ろう、ってそう思ったの。

思いついたら早速やんなきゃって、まだすやすや寝てたそいつを揺り起こして、アイフォン構えて写真を撮ったんだけど、その時の様子をアジサカさんが想像して描いたってのが、今回の絵ってわけなのよね。

で、言い遅れちゃったけど、あたしの名前はパッツィ。エクアドル人よ。
彼はタイ人で名前はトゥアン。
そしてあたしら盗んだトラックの持ち主はホークスって名前みたい。
免許証の写しがダッシュボードん中に入ってたの。
写真で見る限り、温和でやさしそうな感じね...

って、パッツィは言ってるけど、ところがどっこい、そのホークスさん、南部諸州に名を馳せるきわめて凶暴なピックアップトラック乗りの集団、ファイヤーエンジェルドラゴンのボスだったんだからたまらない。
560台ものトラック軍団に追われ彼らは全米中を逃げ回り(その間、当然のごとく二人は恋仲になり)、果てはメキシコ、パナマ、コロンビアを経て、エクアドルへ。

エクアドルでは、そこに太古の昔より綿々と固有の武術を受け継ぐ山の民(パッツィはむろん長老の孫)とファイアーエンジェルドラゴンの熾烈な戦いが繰り広げられることになろうとは、この時ふたりは知る由もありません。
トゥアンの頭の中は「ちぃいっ、眠てー」だし、
パッツィの頭の中は「あさってになったら、こいつに胸だけ触らせたげてもいいかな...」です。

今回の映像
Apichatpong Weerasethakul「Mobile Men 」

トラックの荷台に乗ってる二人の若者、じつはトゥアン君の幼なじみです(笑)

というか、なんちゅう生々しさ!
この監督以外にこんな風に撮れんっちゃんねー。

10年くらい前、パリの映画館でたまたま「ブリスフリー・ユアーズ」っていう映画を見た。
「なんじゃこりゃーっ、すっげーっ」っておったまげ、こんな変な映画、日本じゃそうそう見れんやろうと、しばらくして出たフランス語版のDVDを買った。
以来ひそかに友達とかに貸して見てもらってたんだけど、この監督、アピチャートポン・ウィーラセータクン、なんと一昨年、カンヌでパルム・ドールとっちゃったのでびっくりした。

彼の映画見てると、視覚や聴覚以外の感覚が呼び覚まされ震わされる、つまり臭いだとか湿り気なんかが画面から立ちのぼり見てるひとの身体全体を包む。
なにやら、ざわざわ奇妙な感じなんだけど、いつのまにやらタイの深いジャングルの中、薮の中に寝転んでるみたい。
わけがわかんないまんま、ゆらゆら夢見心地...すてきな気分。

azisakakoji

 
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