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今日の絵(その17)

2012年02月27日

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今回は”あの人の家族ってどんな感じかなっ?”シリーズ第一弾!
上の林檎かじってる女の子、実は「今日の絵(その4)」に登場のタコ獲り青年の妹です。

街の市場で、じいちゃんが育てたオリーブの実を売ってます。
ちっちゃな頃からイルカととっても仲良しで、今もイルカの背に乗っけてもらって、海を散歩してるところです。

一年半くらい経ったあと、トリトンやピピを助けてポセイドン族と戦うことになるんですが、そんなこと今は知る由もなく、その小さな胸の内を占領してるのは、ここんとこ毎週オリーブを買いにやってくる少し太めの青年のことです。

何度か言葉を交わして、とっても素敵な人だと思うし、彼も自分に少なからず好意を持ってくれてるのを感じるんだけど、ただ一つ気がかりがあって、それはいつもいっしょに手を繋いでやってくる無口な髭の男です。

「ひょっとして同性愛者なのかしら...よし、ここはひとつ兄さんに頼んで密かにさぐってもらおう...」と考えているところです。

さて、ここで問題。
彼女は今日、どんな服装でしょう?

01)イルカ革のつなぎ
02)コムサのゆかた
03)日本の中学の購買部で売ってるような濃紺水着
04)まっぱ
05)セントジェームスのボーダーTと白のホットパンツ
06)兄の海パン
07)わかめ
08)ムームー
09)秘部にオリーブの葉のみ
10)この時代はやった青銅の小さな板を組み合わせて作ったワンピース

(答え)
09
わお!

彼女が気になる青年はこんな感じ(ギター弾いてる黒長髪眼鏡の人)
Best coast「When I'm With You」

投稿者 azisaka : 22:12

トートバック(その1)

2012年02月25日

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二年前、ひょんなことから福岡東区は箱崎の九州大学正門近くで、絵付けした小箱を売る店をやることになった。
それでせっかくなので、かっちょいい店名入りのシンボルマークを作ろうと思った。

頭をひねってると、絵柄と店名はすんなりと流れ出てきたんだけど、店名を書き表すいかした字体がうまいこと見つからない。
それで、自分で作ることにした。

なんてったって、手描きによる絵付けがなされた箱だ、民芸調のどしっとした感じのやつがいいよなあ、と思い、鉛筆動かしていろいろやってみた。

やってはみるんだけど、小学校のとき親の気まぐれでちょっとの間通わされてた習字教室は三級止まり、小4の七夕揮毫大会前にやめてしまっている。(つうか、”きごう”って”揮毫”と書くと今知った...)
アルファベットやカタカナならいざ知らず、漢字ってなるとなかなかうまいこといかない。

ううむ、弱ったなあ...
途方に暮れてると、傍らの本棚の中の一冊がピカーンと光った。
手に取るとそれは、白川静「文字遊心」であった。

そのなかの「狂字論」に、中国は清の時代の書家、金農(別号、冬心の名を以て知られる)のことが記されている。

「〜はじめて金農の書に接した人は、おそらく絶句するであろう。『字形の悄々長手な所に如何にものんびりして超脱的な気分』があり、『何処か間の抜けたような原始的な手法が全体を支配している』(金冬心之芸術)と青木迷陽博士が評されたように、眺めてるうちに思わず笑い出してしまうような狂気が、このうちにはある。」

おお!
でもって、その文章の傍らにわずかばかり添えられている金農の手による書、こーれがすごい!
一個々々の字がまるで鼓腹撃壌、腹鼓(はらづつみ)ぽんぽこ打ち鳴らし、大地をどんどこ踏み鳴らし、朗々と歌ってるじいさんの姿みたいだ。
よおし、これを、なんとかまねっこしてみよう。

と、そうやってちょとばかし苦労してできたのが”鰺坂絵箱店”の文字です。

そしてその文字が入ったシンボルマークを、鉄紺色でばばんとプリントしたオリジナルトートバックがついに完成!
しっかり厚手、生成りの生地で、使っていくうち、味が出まくりントイーストウッド!
アルカトラズからの脱出にも耐えうる頑丈さ!
日帰りセンチメンタル・アドベンチャーにうってつけの手頃なサイズ!

現在、絵箱展開催中の「亞廊」でひっそり販売中!。

投稿者 azisaka : 10:18

今日の絵(その16)

2012年02月22日

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リトアニアに住み始めてふた月もすると、もってきた8mmフィルムを全部撮り終えてしまった。
調べたらヴィリニュス駅の近くにひとつだけ現像してくれるラボがあるということなので、持って行った。
そこで働いていたのが、ラーラで、何回か通ってるうち親しくなり、じき一緒に暮らすようになった。
季節は春だった。

ヴェトナムで生まれ育ったぼくとリトアニア人の彼女はへたな英語で話すんだけど、問題なんてこれっぽっちもなくて、何やってても二人ならすごく愉快で満ち足りていた。
仕事がない時はいつだっていっしょにいた。
手をつなぎ旧市街をあてどもなく散歩したり、一日中外に出ず本を読んで過ごしたり、むかしの映画見にいったり...
6月にはヒッチハイクでバルト海の方まで小さな旅行もした。

そうしてると季節が変わった。
南国育ちのぼくにとってこの国の夏は、春がほんの少しだけ背伸びしたみたい、おだやかでほんとうに心地よかった。
二人は春にも増して幸せで、どう軽く見積もっても今までのぼくの人生でもっとも輝くひと時だった。

やがて、秋になり冬が来た。
セーターやジャケットだけでは寒さが凌げなくなると、彼女はどこからか古い革のジャンパーを引っぱり出してきた。
華奢な身体に不釣り合いの、それは大きく重たい男物のジャンパーだった。
「どうしたの、それ?」と聞くと、薄く笑って3年前に死んだ恋人の形見だと言った。
「ふうん」と聞き流した。
けれどその時、ぼくの胸の奥らへん、暗い影がさすのがわかった。

ラーラはいったん取り出すと、外に出る時は、必ずそのジャンパーを身につけるようになった。
いつだってそうなので、とっても似合いそうな、深い緑のウールコートを買って贈った。
「まあ、素敵!」って喜んでくれたんだけど、2、3度着ただけであとは放っておかれた。

寒さから彼女を守るのは唯一、そのジャンパーに限られてるかのようだった。

ぼくはだんだんだんだんそのジャンパーが嫌いで仕様がなくなってきてしまった。
それで、彼女がそれを身につけてる時には、彼女を抱き寄せることも手を組むこともしないようになった。
そうやってたら、彼女がぼくの嫉妬に気付き、そのジャンパーを着なくなることを期待した。
しかし効果はなく、相変わらずいつもそればかりを羽織っていた。

年が明けた。
ラーラはぼくのそんな気持ちを知ってるのか知らないのか知らないふりをしてんのか、よくわからなかった。
そんなわからなさがとっても魅力的で、もっと愛おしくなって、さらにジェラシー心がつのっていった。
ある日、仕事の調子が悪くって、晩ご飯の後、ウオッカをたくさん飲んだ。
すると酔ったぼくのこころの内側が、革のジャンパーの焦げ茶色に染まり、そのずしりとした重みで垂れ下がり、染み付いた北の男の臭いで
膨張した。
それでもはや我慢ができなくなってしまって、とってもとってもバカで子供じみてるんだけど、「ぼくを捨てるかジャンパーを捨てるか、どっちか選んでくれ!」と彼女に面と向かって言ってしまった。

ラーラは見たこともない表情で黙ってうつむいた。
どうしていいかわからないぼくは、椅子に掛けてあったその憎いジャンパーを亡きものにしようと手を伸ばした。
彼女はとっさに遮り、奪い合いになっちまった。
無言で引っぱりあってるうち、どんな拍子かラーラは金具で額を切って血を流し、それを見たぼくははっと我に返って身動きができなくなってしまった。

そんなみじめな東洋人を残し、ちらりともこちらを見ることなしに彼女はアパートを飛び出していった。

ああ、なんてことしてしまったんだろうと打ちひしがれ、頭抱えてうずくまる...
そのうち、酔いの強さで眠ってしまった。

目が覚めると、あわててラーラをさがしに出かけた。
心当たりの友人宅やカフェを訪ね歩いた。

どこにもいない...

途方に暮れて、いつも散歩する公園へと行ってみた。

そしたら、ぼくらお気に入りのベンチ、彼女が静かに座っている。

近づいていった。
彼女がゆっくりと振り向いた。

と、そんな感じの絵です、今回の絵は。(涙)


「って、ええーっ、いったい何よーアジサカさん、この話し、わけわからんけん!」
いやあ、おれもわけわからんっちゃけど、晩ご飯食べてお酒飲んで、ふっとこの絵みたら、こんな話しが湧いて出てきたっちゃんねぇ...
でも、なんとなくそんな感じもするやん、この女の子...

と、そんな時には(ふさわしいかどうか定かじゃないが)こんな曲
The Megaphonic Thrift 「 Exploding Eyes 」
            
この人たちと会って飲んでみたいなぁとか、この場所に行って散歩したいなぁ、とか思うとやもんねー。

投稿者 azisaka : 23:39

絵箱展のお知らせ

2012年02月20日

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けっこう面倒なイラスト仕事やりおえて、ふうっと一息、晩ご飯つくって食べてうまい日本酒飲んでくつろいでたら、小さなギャラリーやってる友達から電話があった。

「おー、ちょーひさしぶり!あけおめやーん、調子はどがん?」としゃべってたら話しの流れで急遽、絵箱の展示会をすることになった。(酔っぱらって気分がよかったのだと思います)

詳細は以下のとおりです。

みなさんこんにちは。
唐突ですが今月18日より、福岡は中央区薬院にあるギャラリー「亞廊」で、ここ数年絵画制作の合間々々に絵付けをした絵箱約30点の展示販売を行っております。
木製の箱にアクリル絵の具で絵を描いた後、ニスを数回塗って仕上げをしてあります。
(表の六面にしっかり絵付けがなされてます。内側は白木のままです。すみません)

(期間)2012年2月18日(土)~3月18日(日)

期間中、土、日、月曜日の開催で入場は無料です。
土、日が13時~19時、月曜が13時~17時の営業です。
日曜日はよっぽどのことがないかぎり、アジサカも会場(もしくは近辺)におります。

場所、ちょっとわかりづらいですが、どうか気軽におこしください。

「ギャラリィ亞廊」
〒810-0014
福岡市中央区平尾1-4-7
土橋ビル307
http://gallery-arou.com

ところで、サーバーの気まぐれかなにかで、一月と二月にアップした文章がどっかに消えてしまいました。
うっかりバックアップしてないものもあったので、その場合は思い出し思い出ししながら書いたんですが、むろん当時の自分と今の自分は(わずかひと月のことといえ)異なるので苦労しました。
というわけで、消えちゃった分、まとめて本日アップしてあります。
ちょっと変な感じですみません。

投稿者 azisaka : 10:24

2012年02月20日

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さて、彼女は何をしてるのでしょう?

01)こういう風にしてたら隣のクラスのジュン君が私のこと振り向いてくれるんじゃないかと思った。
02)娘の保育園に提出する雑巾を手縫いしてこしらえたあと通学カバンにしまったら、なんだかふっとやりきれなくなっちゃって、しばらくぼおっとして、気がついたら糸を首に巻いていた。
03)ただの白糸と見せかけて実は新開発、スーパーオメガヒートテック素材からなるマフラーで、細いけどとってもあったかい。
04)首に巻いて指で弾くことによって、えもいわれぬ美しい音を奏でる弦楽器。
05)白糸と自分の首とどっちが強いか勝負してる。
06)相米慎二の映画「魚影の群れ」の佐藤浩市のまねをしてる。
07)「じゃあ、言ってくるからね」と会社に行ったっきり、もう6年も戻らぬ主人を想い、二人幸せにくらしてたころよく一緒に興じてた遊びを独りやっている。
08)「首5周分の胸の大きさが、理想の大きさよ」って言ってたテレビタレントにだまされてしまった。
09)最初は、いつどこでどんなきっかけで始めたのかわかんないけど、物心ついたときには、彼女特別のまじないになっていて、白い糸を首に巻くとどんな時でも心がすうっと落ち着いた。
10)白糸と思いきや、実は細い白色油性ペンで、首と壁に線が描いてある。

(答え)
たぶん、02か09あたりだとにらんでます。

(今回の曲)
St Vincent 「Surgeon」

うーん、かっちょ良すぎ!田かおる、じゃなくて二郎、というか玄白!

投稿者 azisaka : 10:21

2012年02月20日

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上のふたつの絵についてたわむれに説明をします。

美容室やってる友人に依頼されて左っかわの女の子の絵を描いた。
赤いセーターのとこのスペースにカレンダーを書き加えDMをつくった。

人から注文を受け絵を描くというイラスト仕事はたいていパソコンでやるんだけど、ときどきアクリル絵の具で描くときがある。

イラストっていうのは基本的に、お客さんを呼び寄せたり、商品を買ってもらったりせんがためのものだ。
したがって、それを描く時にはいろんなことに折り合いをつけなくちゃならない。
たとえば、楽しくって明るい感じのものが好まれるし、わかりにくいものは敬遠される。

もちろん、何かに折り合いをつける(制約がある)ってのも、時と場合によっては、大いにものづくりの手助け(俳句のきまりごとみたいに)になる。
けれど、それが自ら選びとったものでないかぎり、たいていは制作の妨げになることが多い。

あまりにその制約みたいなものが多い時には断るけど、少々のことならばかえって自分のためになるので引き受ける。(ちょっと偉そうですまん)
そうして一枚、一旦若干不自由に描くんだけど、仕上がって印刷所などに写真データを届けたのなら、”自分用”に描きなおしてしまうことが多い。
その作業がとっても楽しい。

上に掲げた右っかわの絵はそうやって左の絵を描きなおしたやつだ。

「あー、でも最初に描いた方のコがキュートでもっと素敵やん...」

と、思われる方もいるかもしんない。
かくいう自分も、並べてみてちょっぴりそう感じた。

左側の絵はもはや原画は失われ写真データしか残っておらず、二度と同じものは描けない。
しかし、左の絵を葬りそれを礎にすることによってしか、右の絵は生まれなかった。

ううむ、これは人生の何かに似ている...

投稿者 azisaka : 10:20

2012年02月20日

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8年前の冬、どうしたものか縁あって沖縄で個展をやることになった。
あんましお金がなかったのか、それとも味気ないビジネスホテルがいやだったのか(もはや忘れちまったけど)、その期間中はトイレや洗面所が共同の一泊数千円の安宿に連泊した。
コンクリート打ちっぱなし南向きのやたらと明るいシャワー室、類を見ない独特な寝心地のでこぼこベッド、自分では買わぬ類いのマンガ本並ぶ湿気た談話室...それらすべてがその時分の自分の気分に随分合っていて、心が和んだ。
宿をしきってるロン毛の兄さんは、やたら「寒い、寒い」とぼやいていたけれど、前年まで3回続けてベルギーの冬を越した身体だったので、薄手のセーター1枚で事足りる気候はすこぶる快適だった。

滞在して3日ほどが経った。
観察してると、泊まり客は冬場ということで少なく、それもたいていが一泊きりですぐに入れ替わった。
ところが、一週間以上も泊まるのは自分くらい、と思ってたら一番奥の部屋、そこにすでに一ヶ月前から滞在しているという人がいた。

4日目、朝起きて洗面所へ立つと、それを息をひそめて待ってたかのように奥の扉がすっと開き、中からめがねの男が出てきた。
スラックス(パンツでもズボンでもない)に白シャツを入れ、ベルトをしっかり締めている。
男は隣の洗面台のとこまでくると無言で歯ブラシに磨き粉をつけ、それを口にくわえた。

ああ、何か挨拶しなくちゃ、と思ってたら、突然、踊り始めた。
自分同様、ただ単に歯を磨くものと思っていたのでびっくりした。

すすすすすーっと、軽快なスッテップで、数歩ごとに身体をひねりながら廊下を進んで行く。
突き当たりまで行くとそこでくるっと回転、またすすすすすーっと洗面台のある方にもどってくる。
眼前を通り過ぎ、もう一方の突き当たりへ、またそこでくるっと回転。
それを2、3度繰り返す。
那覇の安宿二階の廊下、ブラシは口にしたまま、ときにシャシャっと歯を磨き、ときにひゅんと身体をひねり、ときにピンと足を宙高くあげる。
うひゃあああー、なんやー、この人.....!
見てて、もうめちめちゃ奇妙でおかしい。

ところが、眼鏡の奥の瞳ときたら本気そのもの。
なので笑うことができない。
すさまじく滑稽なのだが、その滑稽さのレベルを、はるかにその真剣さが凌いでいる。
笑いの方が、有無を言わせず封じ込められてしまう...

そんなことがその日を最初に何回か続いた。
朝や夜、洗面所へ立つとその気配を察知して彼が登場し、歯を磨きながら踊るのだ。
あまりにも変だったので、関わるのはやめとこうと、はじめのうちは見て見ぬ振りをしたり、またはあいさつだけして部屋に逃げ帰っていた。
けど、何回も続くとさすがに声をかけずにはおれなくなった。

「あの、ここにはもう長く滞在してらっしゃるんですか?」とある晩、話しかけてみた。
するとそれまで全くの無表情だったのが、もう何年も前から心待ちにしてたかのように、にっこり花咲くよう笑って、「ええ、ここにはピアノがありますから。」と答えた。(その宿にはなぜか古いピアノがあった)

そうして彼は自分のことを語った。
歳は三十八。それまで音楽史や音響学、楽器やその演奏法、歌や舞踊、とにかくいろんな音楽にまつわることをずっと研究してきたらしい。
で、今は数年前からバーやクラブでピアノを弾いて生計をたてながらあちこちを放浪し、自分の理想とする音楽を追求しているのだという。

それはどんなものかと聞くと、一言で云うならば、”ハーモニー”なんだそうである。
とにかく音楽にはハーモニーこそが大切で、自分はそれを極めんがため、修行をしているのだという。
話しを聞いてると繰り返し取り憑かれでもしたかのように、その言葉が口をついて出てくる。
(内容は残念ながらすっかり忘れちまった...)
知識も経験もたくさんあって、大学に残って適当に研究したり生徒に教えてれば楽な人生だろうに、折れたのをセロハンテープで補強した眼鏡をかけ、くたびれたトランク一つを道連れに、安宿で暮らしている。

「いつも踊ってるのはなんですか?」と尋ねた。
「タンゴです」とおしえてくれた。
「ちょっと立ってみて」といわれたので立つと、頼みもしないのにじゃあ基本のステップだけおしえましょうと手を取った。

真夜中の廊下を行ったり来たり。
端までくるときゅっといさましく回転、向きを変える。
何回もくりかえす。
彼は大真面目。
他人に教えながら、自分も何かを学ぼうとしている様子だ。

しかし、折れたメガネに七三にきっちり撫で付けた髪、ぷりぷりしたお尻、見れば見るほどこっけいだ。
それが眉間にしわ寄せタンゴを踊っているのだからなおさらおかしい。
けれどもやっぱり、別にこらえてるわけではないのに笑うことができない。
彼がほんとうに真剣で、おのが人生をかけて何かを求めようとしている、その切実さがひしひしと伝わってくるからだ。
タン、タン、タタターッ、タン、タン、タタターッと彼が口で調子をとる。
合わさった手、自分の指か彼の指かわかんなくなってくる。
いつのまにやら、ぼくの心は頭上高く舞い上がり、眼下で踊る坊主と七三の奇妙な二人組を見てる。
ひとつになった身体が、すいすい動いててとっても気持ち良さげだ...

その時、この人を”ハーモニーさん”と名付けようと思った。
「大切な人」と記された心の中の箱、そこに入れて死ぬまで保管しておこう、と思った。

それから何年も立った去年の夏、人がたくさん登場する長い絵を描いて展示した。
個展会場にいたら、絵を見た人のひとりが、こんなことを言った。
「描かれてる人、めちゃくちゃ面白いかっこうで踊ったり、ポーズつけたりしてるんですけど、顔っていったらみんな真剣で、
それが不思議な感じでいいですよね」

それを聞いて、「おお、ハーモニーさんが...」と思った。
気付かぬうち、いつのまにやら心の箱からとび出し、踊っていたのだ。

(今回の曲)
どんと「トンネル抜けて」

投稿者 azisaka : 10:18

2012年02月20日

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今回登場は、昆虫学者の蝶歌子さんです。
半年ほど前から、めずらしい蝶々を採集せんがためインドシナ半島をうろうろしていたのですが、先週ミャンマー奥地の森で見たこともない大アゲハチョウをつかまえました。
「きゃあ、やったーっ」ととっても浮かれていたのですが、実はそのチョウ、森に暮らす人々の間で古来より、採ったりしたのならばただちにたたりにあうと恐れられている信仰の対象だったのです。

でもって上の絵は、さっそく悪霊にとりつかれてしまったところです。(右上のとこ)
ひゃあ、そりゃあ大変、すぐにお祓いしなければ!と読者があわてふためくのも当然。

しかし、実は取り憑いたのは他でもなく、遠い昔この地に入植した歌子さん3代前のおじいちゃんの霊だったのです。
おじいちゃん、この後ふりかかるあまたの災難から彼女を守ってくれるのでした。

そんな歌子さんが好んで聞くのはこんな曲
Joanna Newson 「The Book Of Right-on」

投稿者 azisaka : 10:17

2012年02月20日

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今回は「あの人は今」シリーズ第一弾!
上の絵の誇らしげに立ってるじいちゃん、実は「今日の絵その1」に登場の飛行機乗りの青年、50年後の姿です。
現在は自治区ドクロディア第3飛行場、中央管制塔の総司令官として日々働いています。
着てるジャケットは還暦祝いに孫からもらったもので、シャツは妻のイタリア土産、写ってませんが、下は裸足に雪駄履いてます。

投稿者 azisaka : 10:12

2012年02月20日

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さて、このコは手に何をもってるでしょう?

01)トカレフ
02)れんげ草
03)掘ったばかりのサツマイモ
04)搾ったばかりの豆乳
05)ギンビス・アスパラ
06)肉じゃが入った給食のバケツ
07)ビクトリア・シークレットの新作下着
08)字統と字通
09)子猫
10)その他

(答え)
それは君次第!

投稿者 azisaka : 10:08

2012年02月20日

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君は中3の男の子だ。
瀬戸内海に面した小さな街に両親と妹の4人で暮らしてる。
家はなかなか貧しくて、家計を補うため新聞配達の仕事をしている。
毎日毎日、陽の明けぬうちに起き、50件ほどに配って回る。

さて、そのうちのひとつに、それはそれは立派なお屋敷がある。
自分の身の丈の2倍くらいありそうな門戸、その右手に一文字の錆びた口が開いてて、君は毎朝そこに新聞をねじりこむ。
(寝たきりじいちゃんに無理にご飯食べさせてるみたい)

口の奥はどんな風になってるんだろうかと思うけど、高い塀に囲まれて中の様子はまったくわからず、遠目に洋風の屋根の先っちょが少しばかり見えるだけだ。

ある日のこと、学校が終わるやいなや足早に帰ってると(家の仕事の手伝いをするのだ)、いつも固く閉ざされているはずのお屋敷の門、分厚い扉がほんの少し開いてる。

あ、開いてる!
入れる!

しかし、
早く帰らなきゃ、父親にどやされる。
どやされて身をすくめる自分の姿が脳裏にありありと浮かぶ。

浮かぶが、好奇心がそれを一拭きで消し去ってしまう。

気付いた時には、すでに塀の内側、変な形の葉っぱのしげみの横に突っ立っていた。
(つうかふつう親父より、屋敷の人に怒られるのを心配するやろ...)

ぱちくり眼を動かし前方に焦点を合わせる。
うっひゃーっ。

こっ、これが、”クラッシック”かあーっ!
(えっ?)

音楽室でシューなんとかとか、モーなんとかとかいう昔の西洋の人が作った曲を聞かされるとき、閉じたまぶたの裏にぼんやりと映る風景があるのだが、それが今、ぱっきり高解像度で現われた。
(実は君は、クラシック音楽聞いてるとき、妹の少女マンガ(キャンディ・キャンディとか一昔前の)で見た風景を思い出してたわけなんだけどね...)

芝生、噴水、ベンチ、薔薇なんかのとにかくきれいな花々...

嗚呼...
(君は自分の”ああ”もいつの間にかクラッシックになってるので、ちょっと驚く)

感嘆の声をはきながら、夢見心地でふらふらとそんな庭園の中をさまよい歩く。
しばらく歩いてたら、のどか乾いたので、噴水に口をつける。
いつもは両手ぶらりなのだが、今は王侯貴族みたいに蛇口のとこに手を添えている。

と、うしろの方で、かさっと枝葉のすれあう音がした。

君ははっと振り向く。
女の人が立っている。
君を見ている。

と、いう感じの絵です、今回の絵は。(笑)

でもって君は、あわてて自分ちに逃げ帰るんだけど、
その時、流れてくるのがこんな曲だ。

Villagers「Home」


投稿者 azisaka : 10:06

2012年02月20日

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12月、寝がけに布団でファッション雑誌パラパラめくってたら、とうもろこし畑の写真が出てきた。
さして気に留めず次のページをめくろうとしたら「兄さん、ちょっと待ったーっ!」っていう大きな声がした。
どきりとして手をとめると、とうもろこしたちが口をそろえて「なあ、おれたちのこと描いておくんなよー」と勧誘している。
「かんかん照りがこしらえた俺らの陰影、描いてごらんよ」とか「きりっと伸びた葉っぱの線に沿って筆滑らすの、気持ちがいいぜー」とか「あんまし使わないブリリアントな青色で俺らの似顔絵ものにしてみなよ」とか、しきりに訴えている。

それを聞いてたら、それほど熱心に頼むのならしょうがない(と、同時にとてもありがたい)、いっちょう描いてみるか、という気になった。
しかし、とうもろこし畑だけじゃあいささかもの足りない、というかそれだけで画面成り立たせる力量がない。

それで、とうもろこし畑を背景に人物が立ってる絵を描くことにした。
おそるおそるそう提案してみたら、意外とすんなりとうもろこしたちも納得したので、よかったよかったそれで行こうと安心した。

と、いうところまで翌日、朝ご飯食べながら思い出した。
(前夜は安心したとたん、ぐーすか寝入ってしまった)

さて、人物はどんな風にしよう...

あったかい豆乳飲みながら考えはじめた。
まもなく、ピカーン!
傍らの本棚の中の一冊が光った。
手に取るとそれは上野英信の「出ニッポン記」(読んでない人は読もう!)だった。

とうもろこし畑...南米...ブラジル...といえば、日系移民だ。

そんなわけで、とうもろこし畑を背景に、筑豊を追われブラジルに入植した炭坑夫の姿を描くことにした。

その際、とうもろこしを描くのを主体にして、炭坑夫はできるだけ片手間にやろうと決めた。

「私は何ひとつおろそかにしなかった」っていうフランスの画家プッサンの言葉がある。
(座右の銘のひとつになっている。)
それを、絵を描くっていう仕事に当てはめたとして、画面の中のすべてのものをみな等しく”おろそかにしない”でいるのはなかなか難しい。
たとえば普段、人物画を描くことが多いのだけど、やはり背景の空や草花、建物や車などを描くより、人物のほうに気持ちが入ってしまう。
さらにはその人物にしても、手足より顔のほうに、顔ならば、髪の毛や耳鼻などより眼のほうに、どうしてもより力を注いでしまう。

「別にそれでいいじゃん!それで何かさしさわりでも?」と思われる方がきっと大半だろう。
だって、龍を描くとするなら、鱗やヒゲやしっぽより断然、その眼を描くことにより気合いをいれるのが当然のように感じられるからだ。

でもちょいとばかしこの仕事を長く続けてると、”いい絵”ってのは、いつの間にか知らないうち、「よおし、ここは魂込めて描いてやるぞー」などど頑張ったりせず、”片手間”にやった時のほうが、よりうまく立ち現れてくれる、ってことに気がつくようになる。(あ、他の人は違うのかもしれませんけど...)

でも、気がついたってそんな芸当ができるのはすっごく調子が良いときだけで、たいていは時間経つにつれ、顔の表情ばかりに気を囚われ、そこだけ(他のとこはとうに仕上がってるのに)延々と描きなおし続けてる、っていうことのほうが日常だ。

そんなわけなので今回は、背景のとうもろこしを”持ち上げ”、人物をわざと”おろそか”にすることで、人物、ひいては絵全体をうまく描こうとしたのである。(うわあ、まどろっこしさーっ)

つまり、今回の絵が「とんかつ定食」だとするならば、とうもろこし畑がメインの”とんかつ”、その上に広がる空が”ご飯”、着てる服が”みそ汁”で、顔といったら付け合わせの”キャベツ”くらいの立場だということになる。

とんかつを、「うわあ、衣さくさく、中身はジューシー、ああうまかーっ」って味わって食べてたら、いつの間にやらキャベツもたいらげてた。って具合に、人物を仕上げようと思ったのだ。

そうやって仕上がったのが今回の絵だ。

しかし悲しいかな、”とんかつ定食作戦”みごと失敗...
やはり人物描くのに文字通り”囚われ”、さらさらっと描くこと能わずだった。

あいかわらず、”キャベツ”だけ残って、煮たり焼いたり、レモンしぼったりマヨネーズかけたり...

ぜんぜんうまくいかなくって結局、特製ドレッシング(サングラス)かけてしまったんだけど、ううむ...


今回の曲
les rita mitsouko 「les amants」

カラックスの映画「ポンヌフの恋人」の主題歌。
(映画版のとちょっと歌詞が違うけど)
雪が降ると、8回に2回くらいジュリエット・ビノシュがツツーっとポンヌフ橋に積もった雪の上を滑ってくるシーンを思い出す。
それ思い出すと、頭のてっぺん辺りにこの曲がかかる。

先日、日仏学館主催のイヴェントで、そのビノシュを受け止めるドニ・ラヴァンに会って握手してもらった。
おお、この手が...と思い感慨ひとしおだった。

投稿者 azisaka : 10:03

絵箱展のお知らせ2

2012年02月17日

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みなさんこんにちは。
唐突ですが明日18日より、福岡は中央区薬院にあるギャラリー「亞廊」で、ここ数年絵画制作の合間々々に絵付けをした絵箱約30点の展示販売を行うことになりました。
木製の箱にアクリル絵の具で絵を描いた後、ニスを数回塗って仕上げをしてあります。

(期間)2012年2月18日(土)〜3月18日(日)

期間中、土、日、月曜日の開催で入場は無料です。
土、日が13時〜19時、月曜が13時〜17時の営業です。

場所、ちょっとわかりづらいですが、どうか気軽におこしください。

「ギャラリィ亞廊」
〒810-0014
福岡市中央区平尾1-4-7
土橋ビル307
http://gallery-arou.com

ところで、どういうわけか、ブログの一月と二月の記事がどっかへ消えてしまいました。
今、管理人の国東ジョニーに問い合わせてるところです。

投稿者 azisaka : 15:06